当館の調査・研究活動

絶滅危惧種オオイチモンジシマゲンゴロウの未成熟期の成育期間を飼育により解明

絶滅危惧種のオオイチモンジシマゲンゴロウ

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、齊木亮太学芸員、須田将崇飼育員、吉田航飼育員が、絶滅危惧種オオイチモンジシマゲンゴロウの未成熟期の成育期間を飼育により解明しました。

本研究成果は、カナダ昆虫学会が発行する学術誌「The Canadian Entomologist」に掲載されました。

 

 

研究の背景

オオイチモンジシマゲンゴロウは、環境省版レッドリストにおいて絶滅危惧IB類に選定されている絶滅危惧種です。環境省版レッドデータブック2014には、本種の幼虫期間は約2週間であると記述されていますが、具体的なデータは伴っておらず、定量的に調査された成育期間のデータはこれまで報告されていませんでした。ゲンゴロウ科の卵や幼虫は水の中で成長します。このような未成熟期の成育期間は本種の生活史の解明や保全を行う上で重要な情報となります。

本研究では、オオイチモンジシマゲンゴロウを飼育下で繁殖させ、26℃条件下における未成熟期の成育期間を調査しました。

 

 

研究成果

26℃で飼育した結果、卵および1~3齢幼虫の各成育期間、幼虫が上陸後に蛹を経て新成虫が蛹室から脱出するまでの期間などが明らかになりました。今回飼育した26℃における卵期間は3日でした。全幼虫期間は7~11日(平均9日)であり、環境省版レッドデータブックの記述(14日)よりも短いことがわかりました。ゲンゴロウ科の中で最も幼虫期間が短いとされていたEretes sticticusという種の全幼虫期間は9日であることから、オオイチモンジシマゲンゴロウは、これまで報告されているゲンゴロウ科の中で幼虫期間が最も短い種であると考えられました。

本種は水生植物の表面に産卵することが知られていましたが、今回の飼育では流木やコーキングの表面に多数の卵を産みました。野外では、林道上の一時的な水たまりで交尾する成虫や幼虫が観察されています。水生植物が無い環境でも産卵できること、幼虫の成育が早いことは、不安定な水域において繁殖成功率を高めることに寄与していると考えられます。一方、本種の成虫は大きな池でも確認されており、成虫の生息環境と繁殖地は異なる可能性があります。本種を守るためには、それぞれの水域を保全することが重要だと考えられます。

   

 

論文情報

論文タイトル:Biological notes on immature stages of Hydaticus pacificus conspersus (Coleoptera: Dytiscidae)

掲載誌:The Canadian Entomologist, 第154巻

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平),Ryota Saiki (齊木亮太),Masataka Suda (須田将崇),Wataru Yoshida (吉田航)

論文ダウンロードページ(掲載後に下記からダウンロードできます。):https://doi.org/10.4039/tce.2022.8