当館の調査・研究活動

日本から新種のゲンゴロウを発見

新種のオニギリマルケシゲンゴロウ

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、フィンランドのゲンゴロウの研究者からなる研究チームが、日本から新種のゲンゴロウを発見し、記載・命名しました。

本研究成果はアメリカ甲虫学会の国際誌「The Coleopterists Bulletin」に掲載されました。

 

 

研究の背景

マルケシゲンゴロウ属は、世界で214種が知られているゲンゴロウ科の大きなグループです。日本には、このうち9種類が分布しています。

日本では分類学的な研究が遅延しており、従来マルケシゲンゴロウと考えられていた種の中から、2016年にサメハダマルケシゲンゴロウ、2017年にチュウガタマルケシゲンゴロウという2種の隠ぺい種が発見されました。このうちチュウガタマルケシゲンゴロウは当館が発見・記載・命名した新種です。このマルケシゲンゴロウと考えられてきた種のうち、九州以北に分布する個体群を詳しく調査した結果、これまで発見されたどの種とも異なることが判明したため、新種として記載・命名しました。 

 

 

研究成果

今回発見された新種はこれまでマルケシゲンゴロウ Hydrovatus subtilis Sharp, 1882 と考えられていましたが、オスの触角の幅は第4~6節が最も広くなること、雄腹面の隆起線列の発達が弱いこと、雄交尾器の先端が丸みを帯びた三角形になることなどの点により、マルケシゲンゴロウと区別できることがわかりました。本新種は「前胸腹板突起」が「おにぎり型」であることから、オニギリマルケシゲンゴロウ Hydrovatus onigiri Watanabe & Biström, 2022 と命名しました。現時点で判明している分布地域は本州・四国・九州・対馬です。

石川県産のマルケシゲンゴロウとされてきた標本は、全て新種のオニギリマルケシゲンゴロウでした。つまり、石川県版レッドデータブックで絶滅危惧I類に選定されている種はオニギリマルケシゲンゴロウであるため、県内産の個体群は既に絶滅の危機に瀕していることになります。また、マルケシゲンゴロウは環境省版レッドリストで準絶滅危惧に選定されていることから、隠ぺい種3種を含む事実を加味すると実際の希少度はより高くなると考えられます。

また、これまでの研究により、国内のマルケシゲンゴロウとされてきた種の中には、オニギリマルケシゲンゴロウやチュウガタマルケシゲンゴロウなどの新種、海外にも分布するサメハダマルケシゲンゴロウが含まれていましたが、真のマルケシゲンゴロウは確認されていません。マルケシゲンゴロウは、実は日本には分布していない可能性があり、今後も古い標本を含めた検討が必要です。

   

 

論文情報

論文タイトル:A new species of the genus Hydrovatus Motschulsky (Coleoptera: Dytiscidae) from Japan

掲載誌:The Coleopterists Bulletin, 第76巻1号

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平),Olof Biström

論文ダウンロードページ(掲載後に下記からダウンロードできます。):https://doi.org/10.1649/0010-065X-76.1.115