カメノコハムシ類における遺伝子機能解析手法を確立
図1.イチモンジカメノコハムシの成虫形態.a:背側.b:腹側.スケールは1 mm.
石川県ふれあい昆虫館の 篠原 忠 学芸員、静岡大学創造科学技術大学院の 大津 樹 大学院生、北海道大学大学院理学研究院の 千頭 康彦 助教、静岡大学理学部の後藤 寛貴 講師らの研究チームが、カメノコハムシ類(甲虫目:ハムシ科)におけるRNA干渉法を用いた遺伝子機能解析手法を確立しました。
本研究成果は、日本応用動物昆虫学会が発行する英文誌 Applied Entomology and Zoology に掲載されました。
研究の背景
カメノコハムシ類の成虫には、体の周囲に張り出す扁平縁、基質に吸着するための毛が密生した脚、オスの長い交尾器など、ユニークな形態が見られます。そのため、カメノコハムシ類は形態形成機構を調べる上で注目すべき昆虫です。しかし、これまでカメノコハムシ類で形態形成に関わる遺伝子を解析する手法は確立されていませんでした。そこで、私たちはカメノコハムシ類を対象として遺伝子機能解析手法の確立を試みました。
研究成果
本研究では、イチモンジカメノコハムシ Thlaspida biramosa(図1)を対象として、形態形成に関わる遺伝子を解析するためのRNA干渉法を確立しました。RNA干渉法とは、二本鎖RNAという分子を体内に導入することで、標的遺伝子から転写されるmRNAを分解し、標的遺伝子の発現レベルを抑制(ノックダウン)する現象です。標的遺伝子をノックダウンした個体の表現型を観察することで、その遺伝子の機能を推測することができます。手法を確立するにあたり、RNA干渉を誘導した際に観察される表現型が予想しやすいdachshund(dac)という遺伝子を対象としました。dacは主に触角や脚といった付属肢の形成を担っている遺伝子として知られており、二本鎖RNAを導入した個体の付属肢に異常が見られれば、RNA干渉が誘導されたと推測することができます。
私たちは細いガラスピペットを取り付けたマイクロインジェクターを用いて、dacの二本鎖RNAをイチモンジカメノコハムシの終齢幼虫に注射しました。それらの幼虫を飼育し、蛹と成虫の表現型を観察しました。その結果、dacをノックダウンした蛹と成虫のいずれにおいても、触角と脚に異常が見られました。少なくとも成虫で観察された表現型(図2)は、先行研究において他の甲虫でdacをノックダウンした際に見られる表現型と概ね一致していました。
図2.成虫の表現型.上段:GFPの二本鎖RNAを注射した個体(コントロール).下段:dacの二本鎖を注射した個体.スケールは1 mm.
また、dacをノックダウンした成虫で観察された4つの異常な表現型(触角の短縮、腿節の短縮、腿節の溝、跗節の短縮)(図2)に着目し、観察された異常の数を個体ごとに0〜4の5段階でスコアリングしました。異常の程度を表すスコアに対する、二本鎖RNAの注射のタイミング(注射から蛹化までの日数)の影響について解析した結果、異常の程度が最大になる注射のタイミングが存在する可能性が示唆されました。
本研究はRNA干渉による遺伝子機能解析手法をカメノコハムシ類で初めて確立し、ハムシ上科においてdacの機能を初めて明らかにしました。本研究で確立された遺伝子機能解析手法を他の遺伝子にも適用することで、将来的にはカメノコハムシ類特有の形態の形成に関与する分子発生メカニズムの解明が期待されます。
論文情報
論文タイトル:Larval RNA interference targeting an appendage patterning gene dachshund in the tortoise beetle Thlaspida biramosa (Boheman) (Coleoptera: Chrysomelidae: Cassidinae)
掲載誌:Applied Entomology and Zoology
著者:篠原忠・大津樹・千頭康彦・後藤寛貴
論文ダウンロードページ:https://doi.org/10.1007/s13355-026-00984-6