当館の調査・研究活動

絶滅危惧種マルコガタノゲンゴロウの幼虫の食性を解明

図1.マルコガタノゲンゴロウの幼虫の捕食シーン(左上:ヤゴ、右上:エビ、左下:魚、右下:オタマジャクシ).

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、長崎大学大学院総合生産科学研究科の福岡太一氏、同研究科の大庭伸也准教授、熊本水生生物研究所の松井英司氏、ぐんま昆虫の森の澄川智紀学芸員らの研究グループは、絶滅危惧種マルコガタノゲンゴロウの幼虫が多様な餌動物を食べるジェネラリストであることを野外観察と室内実験によって明らかにしました。本成果は、マルコガタノゲンゴロウの幼虫の成育に必要な餌生物に関する重要な情報を含み、本種の保全対策に活用されることが期待されます。

本研究成果は2026年4月7日に、日本陸水学会が出版する国際科学誌「Limnology」にオンライン掲載されました。

 

研究の背景

ゲンゴロウ科は日本各地で急速に個体数や生息地を減らしている水生昆虫です。その中でも、マルコガタノゲンゴロウは環境省版レッドリストの最高ランク『絶滅危惧IA類』に選定され、種の保存法では国内希少野生動植物種に指定されている極めて希少な種です。保全の重要性が高い種であるにも関わらず、本種の幼虫を対象とした網羅的な食性の研究はありませんでした。

本研究では、マルコガタノゲンゴロウの幼虫の食性解明を目的として、石川県と熊本県における野外観察と室内実験を実施しました。

 

研究成果

・野外で観察されたマルコガタノゲンゴロウ幼虫の餌生物

野外では主にヤゴやエビといった水生の無脊椎動物を捕食していましたが、魚やオタマジャクシなどの脊椎動物の捕食も観察され、多様な餌資源を利用できる事がわかりました(図1)。若齢幼虫は主にヤゴやカゲロウ類の幼虫、老齢幼虫は主にエビを捕食し、成長に伴って餌構成が変化することもわかりました(図2)。

 

 

図2.熊本県におけるマルコガタノゲンゴロウの幼虫の餌構成.異なるアルファベットは統計学的に有意な違い(p < 0.05)を示す.

 

4種類の餌を与えたマルコガタノゲンゴロウ幼虫の成長パフォーマンスと餌の好みの比較

ヤゴ、魚、エビ、オタマジャクシの4種を与えて幼虫を育てた結果、ヤゴ、魚、エビ、オタマジャクシの順で幼虫の成育日数が短く、大きな成虫に育つことがわかりました(図3)。生存率は、ヤゴ、エビ、オタマジャクシに比べて魚で低くなりました(図3)。餌の選好性は若齢幼虫では低く、老齢幼虫ではヤゴとエビを好む傾向がありました。

 

 

図3.各処理群におけるマルコガタノゲンゴロウの成長パフォーマンス(左上:成虫までの生存率、右上:幼虫の成育日数、左下:羽化したメス成虫の体長、右下:羽化したオス成虫の体長).異なるアルファベットは統計学的に有意な違い(p < 0.05)を示す.

 

以上の結果から、マルコガタノゲンゴロウの幼虫は多様な餌動物を捕食して成長できることが明らかとなりました。本種が属するゲンゴロウ属には、クロゲンゴロウやトビイロゲンゴロウのようにオタマジャクシだけでは成長できず、ヤゴのような水生昆虫を好むスペシャリスト(成育や生存に特定の餌を必要とする)の存在が知られていますが、本種はジェネラリスト(成育や生存に多様な餌を利用できる)であることが示唆されました。マルコガタノゲンゴロウが生息するためには、餌となる多様な水生動物が豊富に生息できる環境が重要であると考えられます。

 

学芸員から一言

渡部は石川県の野外調査と室内実験などを担当しました。各餌生物を与えた時のマルコガタノゲンゴロウ幼虫の成育パフォーマンスを調べる室内実験では、100頭以上の幼虫を育てました。このような実験には安定した飼育技術が重要で、これまでの業務で培ってきた飼育経験を活かす良い機会となりました。最後に、石川県の野外で得られた情報は、能登半島地震が起きる前年の2023年に珠洲市で調査した際のものです。この貴重なデータを、世界中の研究者が利用可能な論文として発表できた事を大変嬉しく思います。

  

論文情報

論文タイトル:Feeding habits of the endangered diving beetle Cybister lewisianus larvae

掲載誌:Limnology

著者:福岡太一・渡部晃平・松井英司・澄川智紀・大庭伸也

論文掲載サイト:https://doi.org/10.1007/s10201-026-00835-x