当館の調査・研究活動

ハンミョウのメスが性的強要を回避するための新たな行動を発見

写真.ハンミョウのメスの性的強要に対する回避行動.A,水に入ることで交尾を終了させたメス;B,腹部を曲げ、脚を伸ばした「死んだふりのような姿勢」で交尾を拒否するメス.

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、篠原忠学芸員が、ハンミョウのメスが性的強要から逃れるための新たな行動を発見しました。

本研究成果は、2026年1月7日に、日本昆虫学会が発行する国際誌「Entomological Science」にオンライン掲載されました。

   

研究の背景

性的強要とは、オスが自らの交尾の成功率を高めたり、メスが他のオスと交尾する機会を減らしたりするために起こす行動です。具体的には、長時間の交尾や、交尾が終わった後にもメスをガードするなど、攻撃的な交尾行動が多く見られます。これはオスの適応度を高める一方で、メスにとっては大きなコストとなります。このため、オスによる性的強要に抵抗したり、回避するための戦術が多くの昆虫のメスで見られ、メスが雄を蹴る、体を揺するなどの行動が報告されています。

陸生昆虫のハンミョウ科は、獲物を捕らえるために発達した大顎を有します。この大顎は交尾の際にオスがメスを保持する際にも役立ちます。メスの中胸にある溝がこの大顎の形にフィットしているため、大顎で挟まれたメスは、交尾やマウントから逃れるのは困難です。メスのハンミョウは、陸生昆虫で従来観察されてきた行動に加え、性的強要を回避するためのより効率的な行動を有している可能性が考えられます。

今回、この仮説をサポートする2種類の回避行動を野外で観察し、動画として記録することに成功しました。

 

研究成果

 石川県の野外において、メスが①交尾し続けようとするオスから逃れる行動、②強制的に交尾しようとするオスを拒否する行動の2つを観察しました。一つ目の行動は、交尾中のメスが水に入り、水に潜ろうとするものでした。浮力に抗いながら腹部末端の交尾器結合部を水に沈めることで、交尾を終わらせることに成功しました(写真A)。二つ目の行動は、メスが腹部末端節を腹面側に強く湾曲させ、雄の交尾器が届かない「死んだふりのような姿勢」を保つというものでした(写真B)。その際、脚を腹面側に伸ばすことにより、オスは通常の交尾姿勢を保つことができず、観察開始から15分後にオスが交尾を諦めました。

 このような回避行動の頻度や成功率は不明ですが、今回撮影された映像は、野生のハンミョウのメスがこれらの行動を用いてオスからの性的強要を回避できたことを示す決定的な証拠です。特に、陸生昆虫が水を利用して交尾を回避する行動は特筆すべきもので、これまで知られていなかった新たな行動戦術の可能性があります。この観察結果は、交尾中にオスの捕獲から逃れることが困難な他の陸生昆虫種においても同様の行動が起きうることを示唆しています。

  

学芸員から一言

 今回の発見は、企画展「ハンミョウ」を準備する中で発見されたものです。貴重なシーンを逃さないように撮影するのは緊張しましたが、無事撮影に成功しました。こちらのURL「https://doi.org/10.1111/ens.70001」の先にある「Supporting Information」から、ハンミョウのメスによる交尾回避行動の動画をダウンロードできます。ハンミョウのように有名な昆虫でも未発見の行動が残されているところに、昆虫研究の楽しさ・奥深さを感じました

 

論文情報

論文タイトル:Novel sexual coercion avoidance behavior in the terrestrial tiger beetle Sophiodela japonica: From resistance on land to escape in water

掲載誌:Entomological Science

著者:渡部晃平,篠原 忠

論文掲載サイト:https://doi.org/10.1111/ens.70001