当館の調査・研究活動

希少種クロゲンゴロウの幼虫形態を詳細に記載

クロゲンゴロウの2齢幼虫

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、ホシザキ野生生物研究所の林成多所長の研究チームが、日本に分布する希少種クロゲンゴロウの幼虫形態を詳細に記載しました。クロゲンゴロウおよびクロゲンゴロウが属する Melanectes 亜属の幼虫が、種同定の鍵となる刺毛相まで含めて詳細に記載されるのはこれが初めてです。

本研究成果は、2025年10月29日に、国際学術誌「ZooKeys」に掲載されました。

   

研究の背景

ゲンゴロウ科は水中生活に特化した形態を持つ、水生昆虫の仲間です。日本では、成虫の分類は比較的進んでいるものの、幼虫形態の研究は大きく遅延しています。このため、普通に見られる種においても、幼虫の同定は困難な状況が続いています。同定に必要な特徴を明らかにするためには、幼虫の形態的な記載が不可欠です。近年の幼虫記載では、刺毛相(刺毛の数や位置)が重視されており、これにより分類群間の比較が飛躍的に容易になりました。

日本最大種のゲンゴロウを含むゲンゴロウ属は4亜属を含みますが、このうち幼虫が詳細に記載されているのは Cybister 亜属の一部の種に限られていました。今回の研究では、希少種クロゲンゴロウ(環境省版レッドリスト:準絶滅危惧)の幼虫を対象とし、刺毛相を含めて詳細に記載しました。これは、ゲンゴロウ属の Melanectes 亜属の幼虫が刺毛相まで含めて詳細に記載された初めての研究です。

  

研究成果

 成虫の飼育および野外採集により得られた幼虫を用いて全齢期(1~3齢)の幼虫を記載しました。クロゲンゴロウの幼虫に見られる顕著な特徴として、①卵殻破壊器が棘状(1齢幼虫)、②頭楯前縁の突起に生えた毛には弱い縦方向の凹凸があり、複数の毛状に見える(1齢幼虫)、③頭楯前縁の3本の突起のうち、左右の突起は細い(1齢幼虫)、④触角第2節を構成する3節のうち基部の節は暗褐色(1齢幼虫)、⑤触角第1節を構成する2節のうち、先端側の節は基部側の節の約1.3倍未満(1齢幼虫)、⑥触角の刺毛AN3を欠く(1齢幼虫)、⑦頭部のほぼ全体が黒色(2齢幼虫)または暗褐色(3齢幼虫)の個体が出現、⑧前胸背板には2本の暗褐色の縦縞を有する(2・3齢幼虫)が観察されました。

クロゲンゴロウが属するゲンゴロウ属のうち、これまで記載された Cybister 亜属と Melanectes 亜属の幼虫を比較した結果、頭楯前縁の3本の突起の間隔と卵殻破壊器の形に注目すべき形態学的差異が認められました。また、頭楯前縁の突起に生えた毛の形態にも興味深い差異が確認され、これらは Cybister 亜属の幼虫と Melanectes 亜属の幼虫を区別する上で役立つ可能性があります。

  

学芸員から一言

 日本産のゲンゴロウ科の多くの種がレッドリストに選定された希少種であり、保全の必要性が高まっています。図鑑を用いることで大半の成虫は同定できるものの、幼虫の同定は形態的な記載研究の少なさから、依然として困難な状況が続いています。今回のような地道な記載研究により、幼虫の同定が容易になり、より正確な野外調査の実現につながることが期待されます。

  

論文情報

論文タイトル:Description of the larva of Cybister (Melanectes) brevis Aubé, 1838 (Coleoptera, Dytiscidae, Cybistrinae)

掲載誌:ZooKeys

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平)(石川県ふれあい昆虫館),Masakazu Hayashi(林 成多)

論文掲載サイト:https://doi.org/10.3897/zookeys.1257.168982