環境省RL掲載種オキナワマツモムシの生活史を解明 ―地球温暖化は本種の脅威となり得ることを発見
オキナワマツモムシの成虫
石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、沖縄県在住の加藤雅也氏の研究チームが、環境省レッドリスト掲載種オキナワマツモムシの生活史を解明し、地球温暖化が本種の脅威となり得ることを発見しました。また、本種の生息域内保全および生息域外保全について考察し、その成果はオキナワマツモムシの保全対策に活用されることが期待されます。
本研究成果は2022年12月31日に、国際科学誌「Journal of Insect Conservation」にオンライン掲載されました。
研究の背景
オキナワマツモムシはカメムシ目の水生昆虫で、環境省版レッドリストで準絶滅危惧に選定されている希少種です。国内では、沖縄島、屋我地島にのみ分布し、その生息地は局地的です。近年日本の水生昆虫は大きく減少しており、琉球列島に生息する種の多くが危機を迎えつつあることが知られていました。
今回は、オキナワマツモムシを対象として、野外調査と飼育実験により生活史を解明し、生息域内保全および生息域外保全に向けて不可欠な情報を示しました。
研究成果
野外調査の結果から、本種は冬に交尾・産卵し、1〜5月が幼虫の出現時期であると推測されたこと、年1化で新成虫は1シーズンで寿命を迎えること、生活史を完結するために2つの生息地(林に囲まれた池と川)を利用し、年間を通して24℃を超えない水域に生息していることが示唆されました。具体的には、池の水温が高くなる時期には水温が低い川へ移動し、水温が低くなる冬季には池に移動して繁殖を開始します。
19℃で本種を飼育した結果、卵から成虫まで成長するのに97〜105日もかかることがわかりました。19℃と26℃で卵の孵化率を比較した結果、19℃で飼育した卵の孵化率が100%であったのに対して26℃では4%でした。つまり、本種が生活史を完結するためには水温が低く、長期間安定した水域が必要であると考えられます。
オキナワマツモムシが生きていくためには水温が低い環境が必要であることから、地球温暖化は本種の直接的な脅威となり得ます。日本では、本種は沖縄島と屋我地島にしか分布していません。大きな大陸ではないので、気温が上昇した場合に逃げ場がありません。
オキナワマツモムシを保全するためには、水温が低い複数の生息地が移動可能な距離に存在すること、地球温暖化による水温上昇を避けるための緩和策が必要です。具体的には、生息地周辺の森林伐採の規制等が考えられます。本種は環境省版レッドデータブックに選定されている希少種ですから、このような視点で保全対策がとられることが望まれます。
論文情報
論文タイトル:Life history of Notonecta montandoni (Hemiptera: Notonectidae: Notonectinae) and conservation implications
掲載誌:Journal of Insect Conservation
著者:Kohei Watanabe (渡部晃平),Masaya Kato (加藤雅也)
論文ダウンロードページ:https://doi.org/10.1007/s10841-022-00450-y
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