当館の調査・研究活動

ウスリーマメゲンゴロウとトダセスジゲンゴロウの生活史を飼育により解明

ウスリーマメゲンゴロウの成虫

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員が、ゲンゴロウ科の一種ウスリーマメゲンゴロウとトダセスジゲンゴロウの生活史を飼育により明らかにし、ウスリーマメゲンゴロウの卵と1〜3齢幼虫、トダセスジゲンゴロウの1齢幼虫の姿を世界で初めて図示しました。

研究成果は、アメリカ甲虫学会が発行する国際誌「The Coleopterists Bulletin」に掲載されました。

 

研究の背景

ウスリーマメゲンゴロウはロシア、中国、韓国、日本に分布しており、日本からは2020年に初めて発見されました。国内では対馬のみに分布しており、分布は極限されています。トダセスジゲンゴロウは日本固有種で環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧種(絶滅危惧II類)に選定されています。両種の生態に関する知見は非常に限定されており、これらを解明することは保全活動に不可欠な情報を提供し、保全の進展に大きく貢献します。

本研究では、対馬産のウスリーマメゲンゴロウと岐阜県産のトダセスジゲンゴロウを飼育下で繁殖させ、これまで未解明であった未成熟期の生活史を解明するとともに、ウスリーマメゲンゴロウの卵と1〜3齢幼虫、トダセスジゲンゴロウの1齢幼虫の姿を世界で初めて図示しました。

 

研究成果

ウスリーマメゲンゴロウ

本種は水中に沈んだ落ち葉の表面に産卵すること、卵および1~3齢幼虫の各成育期間、幼虫が上陸後に蛹を経て新成虫が蛹室から脱出するまでの期間などが明らかになりました。野外では6月下旬に多くの新成虫が観察されていること、飼育下において卵〜新成虫が羽化するまでの期間は50日であったことから、日本における繁殖期は春であると推測されました。

幼虫の形態について写真を基に確認した結果、本種の2〜3齢幼虫の頭部には後頭縫合線(occipital suture)が認められました(1齢幼虫も後頭縫合線を有する可能性が高いものの写真からは確認できませんでした)。本種を含むモンキマメゲンゴロウ属のうち、モンキマメゲンゴロウ種群とサワダマメゲンゴロウ種群の幼虫は、後頭縫合線を欠くことが知られています。本種が属するホソクロマメゲンゴロウ種群のホソクロマメゲンゴロウ、クロマメゲンゴロウ、Platambus koreanus の幼虫も後頭縫合線を有していることから、後頭縫合線を有するという形質はホソクロマメゲンゴロウ種群の幼虫に共通する特徴であると考えられました。

 

トダセスジゲンゴロウ

 本種の大まかな生活史については既に研究事例がありましたが、以下のような点が新たに判明しました。

先行研究では、本種の新成虫は羽化から1日程度で体が色づき、蛹室を脱出すると記述されていました。しかし、この論文の写真を見ると、成虫はティッシュペーパー上で羽化しており、3齢幼虫の脱皮殻も一緒に写っています。つまり、この情報は、蛹室を人為的に破壊した状態におけるものであることが読み取れました。しかし本研究では、自力で蛹室を破壊した新成虫は1個体のみであり、その他の個体は全て1ヶ月以上も蛹室に留まりました。つまり、本種の新成虫は基本的に自力で蛹室を破壊せず、降雨時や水位が上昇した際に蛹室から脱出するものと考えられました。また、蛹室内に留まっていた新成虫は、幼虫が蛹室を作ってから39〜42日間は生存したのに対し、50〜75日が経過した個体は死亡しました。同属で同様の生態を持つコセスジゲンゴロウは68日間蛹室内で生存したことが知られていることから、本種の乾燥耐性はコセスジゲンゴロウに比べて低い可能性があります。

本種の繁殖期はこれまで6〜8月と推定されていました。本研究では5月4日に採集した成虫が4日後に産卵したことから、実際には5月に産卵が開始される可能性が示唆されました。

 

論文情報

論文タイトル:Biological notes on immature stages of Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) and Coperatus nakamurai Guéorguiev, 1970 (Coleoptera: Dytiscidae)

掲載誌:The Coleopterists Bulletin, 第76巻2号

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平)

論文ダウンロードページ:https://doi.org/10.1649/0010-065X-76.2.233