当館の調査・研究活動

チンメルマンセスジゲンゴロウの生活史を飼育により解明

チンメルマンセスジゲンゴロウ

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、長崎大学の大庭伸也博士の研究チームが、ゲンゴロウ科の一種チンメルマンセスジゲンゴロウの生活史を飼育により明らかにしました。これはセスジゲンゴロウ属の Copelatus nigrolineatus 種群における未成熟期を詳細に記載した世界で初めての研究です。

研究成果は、日本昆虫学会が発行する英文誌「Entomological Science」に掲載されました。

 

 

研究の背景

チンメルマンセスジゲンゴロウは日本、韓国、中国に分布するセスジゲンゴロウ属の一種です。本種は分布域が広いものの産地は局地的で、未成熟期(卵~蛹期間)の情報はありませんでした。

本研究では、長崎県で採集したチンメルマンセスジゲンゴロウを飼育下で繁殖させ、生活史を解明しました。また、当館の先行研究により得られたコセスジゲンゴロウおよびヤエヤマセスジゲンゴロウの幼虫期間のデータを用いて3種の幼虫期間を比較し、生態学的意義について考察しました。

 

 

研究成果

本研究では、卵および1~3齢幼虫の各成育期間、幼虫が上陸後に蛹を経て新成虫が蛹室から脱出するまでの期間などが明らかになりました。野外における確認状況を加味すると、5月末頃から産卵を開始し、繁殖期は6~7月であると推測されました。また、今回の飼育では野外採集後にすぐ産卵を開始したことから、本種の繁殖地は降雨後に水が溜まり、晴天が続くと干上がる不安定な水たまりであると考えられました。

本種の全幼虫期間の最短は13日でした。水中で過ごす幼虫期を短期間で終えられることは、水域に水が溜まっている間に、幼虫期の成長を完結できる確率を高めることに寄与していると考えられます。さらに、今回飼育下で羽化した新成虫は水も餌も無い状態で一月以上生存していたことから、湿った土の中で次の降雨による湛水までの間耐えられそうなこともわかりました。

本種を含む日本産セスジゲンゴロウ属の3種(チンメルマンセスジゲンゴロウ、コセスジゲンゴロウ、ヤエヤマセスジゲンゴロウ)の幼虫期間を比較した結果、チンメルマンセスジゲンゴロウが最も短く、コセスジゲンゴロウ、ヤエヤマセスジゲンゴロウの順に長くなりました。この幼虫期間の違いは、繁殖地の湛水期間の長さや湛水頻度と関係があることが示唆されました。

 

 

研究者から一言

本種のような小さなゲンゴロウについて、野外で卵や幼虫の情報を調査するのは非常に困難です。本研究のように飼育下で詳細な生活史を解明すること、同じ飼育条件下で得られた異種間のデータを比較することにより、各種の生態的意義や特徴が解明されていくことが期待されます。

   

 

論文情報

論文タイトル:Life history of Copelatus zimmermanni Gschwendtner, 1934 (Coleoptera: Dytiscidae) and the ecological significance of the larval period of three Copelatus species

掲載誌:Entomological Science, 第25巻2号

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平), Shin-ya Ohba (大庭伸也)

論文ダウンロードページ(掲載後に下記からダウンロードできます。):https://doi.org/10.1111/ens.12505