当館の調査・研究活動

ニセコウベツブゲンゴロウの生活史の一部を飼育により初めて解明

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員が、ニセコウベツブゲンゴロウの生活史の一部を飼育により初めて解明しました。

 

研究の背景

ニセコウベツブゲンゴロウは、石川県金沢市を模式産地として渡部学芸員が2018年に新種として命名・記載したゲンゴロウ科ツブゲンゴロウ属の一種です(写真)。本種は最近名前が付いた種であるため、環境省版のレッドリストには選定されていませんが、本種と混同されていたコウベツブゲンゴロウが準絶滅危惧に選定されていることから、少なくともそれ以上の希少度があると考えられています。しかし、ニセコウベツブゲンゴロウに関する生態的な情報は極めて乏しく、野外で詳細な調査をするために必要不可欠となる幼虫の姿や期間などの多くの情報が不足していました。幼虫の姿やその成育期間が判明すれば、調査時期や頻度を検討することができ、実際に野外調査を行うことが可能となります。また、産卵生態や蛹になる過程を解明することは、本種の保全を行う際に役立つ重要な情報となります。

 

成果その1:ニセコウベツブゲンゴロウの卵・幼虫・蛹の姿および幼虫の孵化以降の成育期間の解明

本研究では、ニセコウベツブゲンゴロウの飼育・繁殖に成功し、卵、幼虫および蛹を図示するとともに、幼虫が孵化してからの各成育期間を解明しました。いずれも世界で初めての発見となります。

本種の成虫は水生植物Pogostemon sp.の茎の中に1つずつ産卵することがわかりました。26℃条件下における各ステージの成育期間は、1齢幼虫は26日、2齢幼虫は38日、3齢幼虫は510日、全幼虫期間は1121日、上陸(土の中で蛹になるために陸上に上がります)~羽化は8日、上陸~羽化した新成虫が脱出するまでの期間が914日であることがわかりました。3齢幼虫は上陸する2日前から体色が褐色から緑色に変化しました。

 

成果その2:ニセコウベツブゲンゴロウの飼育方法の確立

ニセコウベツブゲンゴロウの飼育方法を確立しました。今回解説した幼虫の飼育方法は、直径8cm、高さ4cmのプラスチックカップに底から5mmの深さになるよう水を入れ、ユスリカ科の生きた幼虫を餌として与えるというものです。この飼育方法では幼虫期の生存率が75%と高く、この方法で育てた成虫と野外で採集した成虫の体長に統計的に有意な差が見られなかったことから、餌として使用したユスリカ科の幼虫は本種の成育に十分な栄養価を備えていることがわかりました。体長約1.7mmと小さな1齢幼虫に対しては、ユスリカ科の幼虫をハサミでカットして食べさせるなど、細かな工夫も紹介しています。さらに、幼虫が蛹になってから新成虫が羽化するまでの生存率は100%であり、加湿・粉砕したピートモスを利用することで適切な蛹化環境を再現可能であることがわかりました。

 

展望

今回得られた幼虫の姿や成育期間の情報は、調査対象の幼虫の姿を識別したり、調査計画を立てる上で適切な頻度を設定するなど、野外で本種の詳細な調査を行う際に役立ちます。紹介した飼育方法は、ニセコウベツブゲンゴロウが属し、国内に生息し絶滅危惧種を多く含んでいるツブゲンゴロウ属の他の種(国内生息種の約42%が環境省のレッドリストに掲載されています)にも活用可能であり、それらの保全にも貢献すると考えられます。

 

本研究の成果はアメリカ甲虫学会の国際誌「The Coleopterists Bulletin」に掲載されました。

 

論文情報

論文タイトル:Biology of the small diving beetle Laccophilus yoshitomii Watanabe and Kamite, 2018 (Coleoptera: Dytiscidae) and rearing methods

掲載誌:The Coleopterists Bulletin, 75

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平)

 

論文ダウンロードページ:https://doi.org/10.1649/0010-065X-75.1.88