当館の調査・研究活動

コウベツブゲンゴロウの生活史の一部を飼育により初めて解明

 

石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員が、コウベツブゲンゴロウの生活史の一部を飼育により初めて解明しました。

本研究成果は、アメリカ甲虫学会が発行する学術誌「The Coleopterists Bulletin」に掲載されました。

 

 

研究の背景

コウベツブゲンゴロウは、環境省版レッドリストでは準絶滅危惧、石川県版レッドデータブックでは絶滅危惧II類に選定されている絶滅危惧種です。当館の研究により、コウベツブゲンゴロウの中には、ニセコウベツブゲンゴロウとヒラサワツブゲンゴロウの2種が混同されていることが近年明らかとなり、これら2種は新種として記載・命名されました。このニセコウベツブゲンゴロウとヒラサワツブゲンゴロウの2種の生活史は飼育により解明されましたが、コウベツブゲンゴロウの生活史は不明でした。

本研究では、コウベツブゲンゴロウの飼育・繁殖に成功し、これまで未知であった本種の生活史、特に未成熟期の生態を初めて解明しました。

  

 

研究成果

1~3齢幼虫の姿を初めて図示し、成虫が植物の組織内に産卵すること、1~3齢幼虫の各成育期間、幼虫が上陸後に蛹を経て新成虫が蛹室から脱出するまでの期間などが明らかになりました。幼虫が孵化してから新成虫が活動を開始するまでの期間を、これまで知られている近縁種4種(ナカジマツブゲンゴロウ、ニセコウベツブゲンゴロウ、ヒラサワツブゲンゴロウ、キタノツブゲンゴロウ)と比較した結果、本種の成育期間は特に短いこともわかりました。本種は、水田のように水が溜まる期間が短い場所に生息します。この限られた湛水期間中に幼虫期間を完結する必要があるために、幼虫の成育期間が短い可能性があります。

本種の成虫は、生息地から持ち帰ったミズユキノシタに産卵したことから、野外でもこの植物を産卵基質として利用している可能性が高いことがわかりました。これは、本種を保全するためには、産卵場所として水生植物が豊富な環境を維持することが重要であることを示しています。また、水田を生息域に含むコウベツブゲンゴロウが減少した理由の一つとして、除草剤による産卵用植物の減少が関係している可能性が示唆されます。

以上の研究成果は、本種の保全に貢献するものと考えられます。

 

 

  

論文情報

論文タイトル:Biological notes on immature stages of Laccophilus kobensis Sharp, 1873 (Coleoptera: Dytiscidae)

掲載誌:The Coleopterists Bulletin, 第75巻4号

著者:Kohei Watanabe (渡部晃平)

論文ダウンロードページ(掲載後に下記からダウンロードできます。):https://doi.org/10.1649/0010-065X-75.4.758